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久留米農業体験「くる農」で、苔玉(こけだま)つくりを体験

 久留米農業体験「くる農」の「苔玉つくり」に参加しました。お世話になったのは、久留米市田主丸町殖木の「九州農園」栗木トシ子さん・直樹さんご夫婦。桜などの植木・苗木がご本業だけあって、ご自宅の玄関先や庭園は、新緑眩しい木々や綺麗な花々に満ちていました。初めての苔玉つくり。自然と触れ合う「和」の気持ち良さを味わいました。庭園では美味しいお食事を楽しみ、苗木の話にも花が咲き-。耳納北麓の魅力的な暮らしに近づける楽しいひと時を紹介します。



和洋が調和した玄関先や庭園が印象的な「九州農園」さん
 晴天の青空の下、集合時刻の朝10時。九州農園さんを訪れると、木々や草花の美しさにまず目を奪われました。玄関先は門かぶりの槙と花鉢で飾られ、和と洋が上手く取り合わされた印象です。その印象は、庭園でさらに強まりました。赤青パラソルのテーブルから右を見れば、樹齢120年を超す多行松が幾つもの枝を伸ばす圧倒的な和の趣き。一方、左を見れば、ゆったりとした空間で洋風の趣き。二つの趣きが無理なくつながっています。この庭園でずっと過ごしたくなりました。



まずは桜チップ燻製でガーデン・ランチの仕込み
 その庭園でのガーデン・ランチのために、最初は燻製作りです。直樹さんが火を点けたチップ材は、売れ残った桜の苗木をチップにした自前だそうです。燻製の材料はベーコン、鶏肉、チーズ、卵など…。そこへトシ子さん「これもやってみましょ!」と筍も!?楽しければ何でもOKです。苔玉つくり参加者の皆さんも手伝って、煙同様に和気あいあいの雰囲気が次第に湧き上がってきました。



苔玉(こけだま)つくり① 準備、ケト土と植物選び
 いよいよ苔玉つくり。皆さんも真剣な表情に。今回の参加者は、生け花をなされてる森川さん、佐賀の陶芸工房のご主人・岩本さん、みどりの里づくり推進機構にお勤めの野上さん、そして私の4人。 
 材料は、まずは各自で選ぶ植物。それを包む肥料入りの土にミズゴケ。さらに外側に、沼の水底に積もったケト土(似ていても田圃の黒土は代用できません)。最後に一番外に巻く緑のシノブ苔。ケト土は短時間で耳たぶくらいの柔らかさに揉む熟練技が必要で、トシ子さんが準備してくださいました。



苔玉(こけだま)つくり② いよいよ挑戦もなかなか難しい…
 トシ子さんから作り方を習うのですが、やはり初めてのこと。やってみると難しかったです。草花の根を大事にするあまり、周りの材料を全てタップリしたくなり。しかも玉にする力加減も恐る恐るなので、柔らかくしか握れず。でも、それでは小さい苔玉になりません。参加者の皆さんも大きめになりましたが、特に私の苔玉は、玉ならぬハンドボールのような大きさになり…。
 シノブ苔を黒糸で縛ると、トシ子さんが最後に各自の苔玉を水に浸け、その後で
苔玉を力を込めてグッと絞りました。しかも、草花が必要な水分を保つのにちょうど良い具合に。これぞ日本的な大胆かつ繊細な職人技!



苔玉(こけだま)つくり③ でも大丈夫、2個目が作れます!
 失敗した…落胆しかけた時、「さぁ2個目です!」とリツ子さん。あぁ、良かった。皆さんも「今度は上手く」とやる気満々。使う植物は、庭園を歩いて好みの草花を選び、それをモミジと合わせます。
 要領も分かったので、参加者の皆さんも自分の個性を発揮。森川さんは生け花の感性で、枝数を減らしバランスの良い枝ぶりに仕立てます。岩本さんは、イメージする工房の焼き物に合うよう苔玉を整えます。野上さんもお好みのモミジを選択できたようです。制作を楽しむ皆さんの表情も、1個目とは明らかに違って、とても柔らかな表情になりました。
最後は、出来上がった各自の2個の苔玉を並べて、参加者全員の記念撮影。並べてみると苦戦した1個目の苔玉にも愛着が湧いてきました。こうして苔玉つくりも無事終わり、お待ちかねのガーデン・ランチの会場、庭園へと移動したのでした。


燻製と手料理のガーデン・ランチ


 庭園には各種燻製に始まり、手作り御馳走がズラリと並んでいます。タケノコの味ご飯。油高菜。ヤーコンのきんぴら。干しタケノコの煮物、がめ煮。シメサバのぬた。深ネギと卵スープ。おからサラダ。里芋の塩ゆで。自家製らっきょう。皆さん、どれから頂こう?と嬉しく迷いながらお皿に盛っていました。
 そして皆揃ってのランチ。春の日差しとキラめく新緑、苔玉つくりの達成感も相まって、頂戴した料理はどれも美味しく、話も盛り上がり、素敵なランチとなりました。


ランチでの話題-しめ縄つくりのこと、苗木接ぎ木のこと
 ランチでは、田主丸ならではのお話も聞くことができました。
 九州農園さんの「くる農」メニューとしては、6月の植木の剪定・寄せ植え、11月になれば、米の収穫で出てくる藁を使ったしめ縄づくりが体験できるそうです。直樹さんが実際に作ったしめ縄を手にして作り方を説明しました。それを聞いた陶芸家の岩本さんは、続いて藁と陶芸の話を。成形した器を粘土の土台から切り離すには、藁が一番綺麗に切れるのだそうです。参加者によって、話の内容が新たに広がるのも「くる農」の魅力です。
 さらに、田主丸で普通に見かけるミカンの接ぎ木畑の話になると、直樹さんは年季の入った木箱をテーブルに持参。中には、接ぎ木に使う小刀が収められていました。この小刀は田主丸独自の刃の反りがあり、田主丸の鍛冶屋さんに作ってもらうのだとか。

 接ぎ木を行う時は4~5万本、多い時は15万本になることも。一家族では到底こなせないので、近隣の農家が互いに助け合っての作業。それでも一人で一日千本単位で接ぎ木するため、一本の小刀では足りず数時間毎に替えていきます。だから木箱には1日に使う本数が入っています。1日の仕事が終わると、1時間以上掛けて全ての小刀を研ぎます。そのため、使い込むほど小刀は短くなっていきます。研いで短くなった小刀には、本当に驚きました。

 接ぎ木には、もう一つ必需品があります。接いだ木を固定するテープです。「メデール」というこのテープは、八女市のメーカーと田主丸農家との共同開発。単に固定するだけなら、ビニールテープでも良いのですが、出てきた芽がビニールを破れません。「メデール」なら芽がテープを破ることができます。今や全国の苗木業者ならば誰でも知っているほど有名な製品だそうです。ランチでは、メデールで野上さんの指に割り箸を接ぐ実演まで見せてもらえ、田主丸の暮らしを間近に感じることができました。因みに、このメデール、指の切り傷に貼れば絆創膏代わりにもなるそうです。


最後に-田主丸らしく自宅を彩る
 苔玉つくりと、ガーデン・ランチの食事と歓談を楽しむ充実の週末の時間でした。トシ子さん手作りの高菜漬けと果実のパール柑までお土産にいただいて、自作の苔玉と共に満ち足りた気分で家路へとつきました。
 引っ越してまだ日も浅い殺風景な私の部屋。しかし、苔玉を置くとパッと彩りが加わり「我ながら良いなぁ」と感動してしまいました。2~3日に一度、苔玉が軽くなったと感じたら、水に浸けて絞る。夜は、外へ少し出してやる。それを欠かさず続ければ、シノブ苔も次第に増えてくるそうです。
 植木・苗木の田主丸。その田主丸ならではの和のインテリア。あなたの部屋にも自作で一つ、いや二つ、いかがでしょうか?


インフォメーション(九州農園、久留米市農業体験「くる農」など)
 九州農園さん 〒839-1204 福岡県久留米市田主丸町殖木480番地 TEL 0943-72-2431 FAX 0943-73-0518
 久留米世界つつじセンター「「くる農」と「久留米に泊まらん農」についてのご紹介」http://www.sekai-tsutsuji.center/event/index.html。平成31年4月~平成31年9月プログラムが閲覧できます。今回の九州農園さんを含む「くる農」12メニューと、農家民泊「久留米に泊まらん農」を提供する6農家さんが紹介されています(九州農園さんは「九州のうえん 小宿さくら」として民泊もされています)。
 久留米市とは筑後川を挟んでお隣の市、朝倉市では小中高校生が農林業体験する体験学習事業を積極的に行っています。朝倉グリーンツーリズム協議会 http://asakura-gt.com/。九州農園さんは、朝倉グリーンツーリズム協議会の一会員として小中高生の民泊にも対応されています。
 また、九州農園さんは、以上のプログラムとは別個に、ご自身で庭園を開放しての催し「オープンガーデン」や、耳納連山や周辺の農地を散策する「オープンガーデンウォーク」を定期的に開催されています(詳しくは、九州農園さんに直接お問い合わせください)。

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